サステナビリティ経営に取り組む企業は増えています。その一方で、「開示要請への対応に追われている」「マテリアリティを特定したが、本業とつながっていない」と悩む担当者も少なくありません。
こうした状態で取り組みの数だけを増やしても、「やらされ感」は消えません。必要なのは、サステナビリティを既存事業の外側に付け足すのではなく、「将来どのような企業として生き残るのか」を考える経営課題として捉え直すことです。
ほな社長本記事では、合同会社持続可能 CEO で『サステナビリティ経営のジレンマ』の著者でもある川井健史氏と、株式会社波濤代表の玉木巧(ほな社長)による対談をもとに、サステナビリティ経営が形式化する理由をひも解きながら、事業戦略として機能させるためのマテリアリティの考え方や、経営層を動かす具体的なアプローチを解説します。
本記事の内容はYouTube動画でもご覧いただけます。
サステナビリティ経営とは「生き残るための経営」
サステナビリティ経営とは、社会課題の解決と経済的価値の創出を両立させ、企業が将来にわたって生き残るための経営です。
ここで重要なのは、社会貢献と利益を別々のものと考えないことです。寄付やボランティアは大切な活動ですが、本業の利益と切り離されたままでは、経営環境が悪化したときに継続が難しくなる可能性があります。
一方、社会課題の解決を商品やサービスの価値に組み込み、顧客から対価を得られる仕組みをつくれば、取り組みは事業として持続できます。つまり、「良いことをする」だけではなく、社会的価値と経済的価値を同時に生む事業モデルへ変えていくことが、サステナビリティ経営の核になります。
気候変動や貧困などの社会課題が深刻化するなか、企業に対する社会の評価基準も変化しています。たとえば、CO₂を排出し続ける事業は、将来的に社会から厳しい目を向けられ、企業の信頼や事業継続に影響する可能性があります。
サステナビリティは、余裕がある企業だけが行う活動ではなく、自社の存続条件を見直す取り組みなのです。
なぜ日本企業の取り組みは形式化しやすいのか
日本企業がサステナビリティに取り組むきっかけとして、政府の規制や社外からの情報開示要請は大きな役割を果たしてきました。ただし、外部から求められた項目に応えることが出発点になると、「自社は何を実現したいのか」よりも、「求められた項目を満たしたか」が中心になりやすくなります。
その結果、サステナビリティ開示のガイドラインが、経営を変えるための道具ではなく、順番に埋める「問題集」のように扱われてしまいます。全項目に形だけ対応しても、会社が向かう方向や、事業で生み出す価値が変わっていなければ、取り組みは形式的になりがちです。
ここで重要なのは、欧米企業と日本企業を単純に比較することではありません。
見るべきなのは、自社が意思を持って社会や市場を変えようとしているのか、それとも規制や要請への対応に終始しているのかという点です。外部要請を入り口にしつつも、そこから自社の意思や戦略へ踏み込めているかを点検する必要があります。
成功する企業と失敗する企業の違い

成功する企業と形式化する企業を分けるポイントの一つが、マテリアリティの出発点です。
取り組みが形式化する企業は、現在の事業や同業他社の開示から逆算し、無難な重要課題を並べる傾向があります。一見すると網羅的ですが、どの企業にも当てはまる課題ばかりでは、自社の戦略や強みが見えません。サステナビリティの取り組みが本業の外にあるCSR活動にとどまり、事業の競争力や利益に結びつきにくくなります。
一方、成功する企業は、「自社は何をしたいのか」「どのような社会の状態に怒りや問題意識を持っているのか」という熱量から出発します。そして、その想いをマテリアリティとして定義し、既存の事業モデル自体を社会課題解決型へ変えていきます。
成功と失敗の違いを整理すると、次のようになります。
| 観点 | 成功しやすい企業 | 形式化しやすい企業 |
|---|---|---|
| 出発点 | やりたいこと、熱量、問題意識 | 外部要請、ガイドライン、同業他社の取り組み |
| マテリアリティ | 自社が実現したい未来から定める | 無難で横並びの課題を並べる |
| 事業との関係 | 事業モデルそのものを変える | 本業と切り離したCSR活動になる |
| 成功の定義 | 実現したい社会と経済的成果を言語化する | 取り組みを行うこと自体が目的化する |
ミシュランの事例から考える「事業の再定義」
事業モデルの変革を考えるうえで参考になるのが、タイヤメーカーのミシュランです。
「良いゴムを売る会社」と自社を定義すれば、改良の中心は製品性能になります。しかし、企業の使命を「命を守ること」「安全な運転を支えること」と捉え直すと、価値の届け方は製品の売り切りに限られません。タイヤの状態を継続的に管理し、安全な走行を支えるサブスクリプション型のサービスも、価値提供の選択肢になります。
この事例から得られる示唆は、サステナビリティは事業の制約だけではなく、自社がどのような価値を売る企業なのかを問い直し、事業をバージョンアップする起点になり得るということです。
形式的な取り組みから抜け出す4ステップ

すでにマテリアリティや方針を策定したものの、取り組みが本業とつながっていない企業は、次の順序で再設計を進めていきましょう。
STEP1:「やりたいこと」からマテリアリティを再定義する
現在の事業内容や他社の開示を前提にせず、自社が本当に解決したい社会課題を改めて考えます。
・経営層や社員は、どのような社会の状態に問題意識を持っているか
・自社の強みを使って、どの課題に変化を起こしたいか
・将来、自社がどのような企業としてイメージされたいか
ここでは、見栄えの良いテーマや、業界でよく使われる言葉を選ぶことが目的ではありません。経営の意思決定に使えるほどの必然性と熱量があるかを確認します。
STEP2:ロジックモデルで「社会がどう変わるか」を描く
マテリアリティを選んだだけでは、実際の変化は起こりません。次に、自社の活動がどのような成果を生み、その結果として社会がどう変わるのかを、一連のストーリーとして整理します。
活動、直接的な成果、中長期的な成果をつなぐことで、「取り組んでいる」という事実だけでなく、取り組みの意義と仮説を示せるようになります。
STEP3:成功の状態を言語化し、KGI・KPIに落とす
取り組みに「成功」の定義がなければ、実行した施策の数が成果として扱われてしまいます。
どのような社会の変化を目指すのか、どの水準まで達成すれば成功なのかを言語化し、KGIやKPIとして数値に落とし込みます。数値化することで、経営層と現場が同じ到達点を共有し、進捗を評価できるようになります。
STEP4:社会課題の解決と利益を事業モデルに統合する
最後に、社会課題の解決を、会社が利益を生み出す仕組みとつなげます。利益を出すことは、社会貢献と対立することではありません。対価を得られる価値にできて初めて、人材や技術、資金を再投資し、取り組みを継続・拡大できます。
社会課題と顧客の課題をどのように重ね、誰が対価を支払い、企業はどのように収益を得るのか。ここまで設計してこそ、サステナビリティが本業の一部になります。
経営層を動かす3つのアプローチ

サステナビリティ経営を本業とつなげるには、経営層のコミットメントが欠かせません。しかし、正しい知識を一度説明すれば経営層が動くとは限りません。
経営層を巻き込む方法は一つではありません。組織の状況や意思決定の特徴に応じて、次の3つのアプローチを使い分けます。
1.集中ワークショップで経営層自身に考えてもらう
短期間で意識を変えたい場合は、役員や事業部長などを一堂に集め、長時間の集中セッションを行います。たとえば8時間程度の時間を確保し、単なる知識のインプットで終わらせず、その場で経営層自身に考え、言葉にしてもらいます。
他人が作った方針を承認するのではなく、自分自身の言葉で問題意識や意思を示すことで、当事者意識を高めます。
2.現場主導のロードマップで中長期的に風向きを変える
経営層全員をすぐに巻き込むのが難しい場合は、現場がロードマップを描き、段階的に組織を動かしていく方法もあります。
組織によっては、3年程度のロードマップを描き、役員の交代や学習の機会を捉えながら、少しずつ風向きを変えていく方法が適しています。一度の説明で全員の理解を得ようとするのではなく、意思決定のタイミングと組織の変化を見ながら進める発想です。
3.1on1で本音とキーパーソンを見極める
経営会議の場では、参加者全員が本音を語るとは限りません。そこで経営層と個別に対話し、関心、懸念、現在の温度感を把握します。
大切なのは、誰がもっとも話を前に進められるのか、どのタイミングで誰に論点を渡すと経営会議で合意が生まれるのかを見極めることです。これは根回しというよりも、組織の意思決定の構造を理解し、適切な対話を設計するアプローチです。
統合報告書の「価値創造プロセス」から本気度を考える

自社や他社のサステナビリティ経営がどこまで進んでいるかを考えるときは、統合報告書やサステナビリティレポートの「価値創造プロセス」が一つの手がかりになります。
確認するのは、価値創造プロセスの図の中で、マテリアリティがどこに置かれているかです。
マテリアリティが人的・財務的なインプット、長期計画、中期ビジョンより前に置かれていれば、重要課題が経営戦略の出発点として扱われていると読み取れます。
一方、マテリアリティが価値創造プロセスの中盤や後半に置かれている場合は、経営の方向を決める要素ではなく、後から付け加えられた課題として扱われている可能性があります。配置は単なるデザイン上の問題ではありません。マテリアリティをどこに置くべきかという社内の議論そのものが、経営における位置づけを映している場合があります。
もちろん、図表の配置だけで企業の取り組み全体を断定できるわけではありません。一方で、自社がマテリアリティを「経営の入口」として扱っているのか、それとも「対応項目の一つ」として扱っているのかを考える、有用なチェック項目にはなるでしょう。
まとめ
サステナビリティ経営に唯一の正解はありません。ガイドラインや他社事例は参考になりますが、それらと同じ項目を並べるだけでは、自社ならではの価値は生まれません。
まず必要なのは、自社が何をしたいのかを言葉にすることです。次に、自社の活動が社会の変化と利益にどうつながるのかを設計し、成功の状態を数字で示します。そして、経営層と現場が同じ到達点を共有し、実行と対話を重ねていきます。
規制や開示要請に応えることは必要です。しかし、そこで終われば、サステナビリティはコストと負担でしかありません。自社の強みと問題意識を出発点に、社会的価値と経済的価値を生む事業へ変えていく。ここまでできて初めて、サステナビリティ経営が企業の生存戦略になります。
株式会社波濤では、サステナビリティ経営の推進に役立つお役立ち資料を無料でご用意しています。マテリアリティの整理や社内浸透、実行計画づくりのヒントとして、ぜひご活用ください。
また「マテリアリティを定めたものの本業につながっていない」「経営層を巻き込みながらサステナビリティ経営を進めたい」とお悩みの企業向けに、60分の無料相談も承っています。自社の現在地を整理し、次に取り組むべきことを明確にしたい方は、お気軽にご相談ください。

-1.png)
