パーパス経営とは?MVVとの違い・作り方・社内浸透方法を企業事例とともに解説

「パーパス経営」という言葉を耳にする機会が増えました。一方で、「パーパスとは何か」「ミッションやビジョンと何が違うのか」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

パーパスは、企業イメージを高めるためのキャッチコピーではありません。自社が社会に存在する理由を明確にし、事業の方向性や意思決定、社員一人ひとりの行動をつなぐ経営の軸です。

ほな社長

本記事では、パーパス経営の意味、MVVとの違い、企業事例、自社らしいパーパスを発掘する方法、社内浸透を進める4つのステップまで、実務の流れに沿って解説します。

本記事の内容はYouTubeでもご覧いただけます。

目次

パーパス経営とは

「Purpose」は、直訳すると「目的」です。企業経営におけるパーパスは、一般に企業や組織の「社会的な存在意義」を意味します。言い換えれば、「私たちは、なぜ社会に存在するのか?」「なぜ、この事業に取り組むのか」といった根本的な問いに対する答えです。

パーパス経営とは、この存在意義を掲げるだけでなく、経営判断、事業開発、組織づくり、人材育成、日々の業務へ落とし込んでいく経営だと捉えられます。

顧客課題と社会課題を分けて考える

パーパスを理解するために押さえておきたいのが、「顧客課題」と「社会課題」の違いです。

顧客課題とは、顧客が対価を支払ってでも解決したいと考える課題です。企業にとっては収益につながりやすく、多くの企業が参入するため、競争も生まれます。

一方、社会課題には、気候変動や生物多様性の損失、貧困、飢餓、差別、ジェンダー不平等、地方の人口減少などがあります。課題の影響を受ける人が、必ずしも十分な対価を支払えるとは限りません。そのため、市場原理だけでは解決が進みにくい課題もあります。

パーパスは、目の前の顧客だけでなく、「自社はどのような社会課題に向き合い、どのような社会を目指すのか」という広い視点を与えます。

ただし、顧客課題と社会課題を対立させる必要はありません。企業が自社の技術や知見を活かし、社会課題の解決と顧客価値の創出を両立できれば、社会への貢献を事業として持続させやすくなります。

パーパスとMVVの違い

パーパスと一緒に語られることが多いのが、MVVです。MVVは、Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー)の頭文字を取ったものです。

企業によって理念体系の定義や並び方は異なりますが、パーパスを最上位に置く場合は、次のように整理できます。

概念意味答える問い
Purpose企業の社会的な存在意義Why:なぜ存在するのか
Vision実現したい方向や将来の姿Where:どこへ向かうのか
Missionパーパスやビジョンのために行うことWhat:何を実現するのか
Value & Ways大切にする価値観や行動指針How:どのように実現するのか

重要なのは、用語の順番を形式的にそろえることではありません。自社の理念体系の中で、それぞれの言葉がどの役割を担い、経営や現場の判断にどうつながるのかを明確にすることです。

KDDIテクノロジーに見るパーパスとMVV

KDDIテクノロジーは、パーパス、ビジョン、ミッション、バリューを次のように掲げています。

引用:パーパス|株式会社KDDIテクノロジー採⽤サイト

高い技術と知見を土台に、人と技術をつなぎ、技術で夢を現実にしていく。その先に、社会や人々の生活をもっと楽しく、面白くするという存在意義が置かれています。

このように各概念がつながっていれば、パーパスは抽象的なスローガンではなく、事業や行動を方向づける軸になります。

なぜ今、パーパス経営が重要なのか

企業を取り巻く社会は、先行きを見通しにくくなっています。気候変動、人権課題、人口減少など、短期的な利益の追求だけでは解決が難しい問題が顕在化しています。

こうした社会課題が深刻になるなか、企業にも「社会課題の解決を担う主体」としての役割が期待されています。そして自社がどの課題に向き合い、何を通じて貢献するのかを明らかにするパーパスは、経営の方向を示す北極星のような役割を果たします。

判断に迷ったとき、短期的な流行や目先の利益だけに引っ張られず、「この選択は自社の存在意義に沿っているか」と問い直せるからです。パーパスは、既存事業を正当化するための言葉ではありません。自社の本質的な強みを社会課題の解決へ向け直すことで、新しい事業や価値を生み出す起点にもなります。

事例:味の素グループ

味の素グループは現在、志(パーパス)として「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」を掲げています。

「アミノサイエンス®」という言葉には、アミノ酸の研究で培った技術や知見を、食品だけでなく幅広い分野で社会の役に立てていくという同社の考え方が込められています。

その象徴が、高性能CPUの回路基板に使われる絶縁フィルム「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」です。アミノ酸研究で得た知見を樹脂材料へ応用して生まれ、現在では全世界の主要なパソコンに使われる高性能CPU用の層間絶縁材で、ほぼ100%のシェアに達していると公式に説明されています。

「食品会社として何ができるか」ではなく、「自社の強みで社会にどのような価値を届けられるか」を考える。味の素グループの事例は、パーパスが既存の事業領域を越えた挑戦の判断軸になることを示しています。

自社らしいパーパスの発掘方法

自社でもパーパスを掲げようとすると、つい「格好のよい言葉を作ろう」と考えてしまいます。しかし、きれいな言葉を外から持ってきても、社員や顧客から共感を得られるとは限りません。

パーパスは、ゼロから作るというより、自社の歴史や哲学、強みの中から発掘するものです。

・会社は、どのような問題意識から生まれたのか
・顧客や社会に対して、何を大切にしてきたのか
・苦しい局面でも手放さなかった価値観は何か
・他社にはない技術、知見、文化は何か
・その強みを使って、どのような社会を実現したいのか

こうした問いを掘り下げると、自社らしい「想い」が見えてきます。

エプソンのパーパスに見る基本構造

セイコーエプソンは、パーパスを「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る」と定めています。

前半の「省・小・精」は、省エネルギー、小型化、高精度化を追求してきた同社独自の強みです。後半の「人と地球を豊かに彩る」は、その強みを通じて実現したい社会を示しています。

この例から、パーパスの基本構造を次のように整理できます。

「自社ならではの強み・手段」 × 「社会に提供したい価値・実現したい未来」

エプソンは、パーパスを文字だけで発信するのではなく、「MY PURPOSE STORIES」として、同社が取り組む社会課題と、人々の想いが実現されていく様子を事例で伝えています。抽象的な言葉を、具体的なストーリーによって理解できる形にしている点も参考になります。

パーパスを発掘する3STEP

パーパスを発掘する3STEP

パーパスを検討する際は、次の3つのステップで進めると整理しやすくなります。

STEP1:自社の強みと歴史を棚卸しする

創業の背景、これまで大切にしてきた哲学、顧客から評価されてきたこと、困難を乗り越えた経験、独自の技術や文化を洗い出します。経営者だけで決めるのではなく、役員や社員が参加する対話やワークショップを設けると、自社の中では当たり前になっていて気づきにくい強みも見つけやすくなります。

STEP2:向き合う社会課題を特定する

目の前の顧客だけでなく、社会全体へ視野を広げます。自社の強みを活かすことで、どのような社会課題を解決できるのか。どの課題を、自社として解決したいのか。その結果、どのような未来を実現したいのかを考えます。

社会課題を広く取りすぎると、自社との接点が薄くなります。「重要だから取り組む」だけでなく、「自社だからこそ、どう貢献できるか」まで掘り下げることが重要です。

STEP3:強みと目指す社会を言語化する

自社の強みと目指す社会が見えてきたら、両者をつないで言葉にします。

前半に自社の強みや手段、後半に社会へ提供する価値や目指す未来を置く構造は、一つの有効な型です。ただし、型に当てはめること自体が目的ではありません。社員が自分たちの歴史や仕事と結びつけて語れ、社外の人にも意味が伝わる言葉へ磨き上げていきます。

短時間でコピーを決めるのではなく、背景にある考え方まで含めて議論する時間を確保しましょう。

パーパスを事業へ落とし込む2つの方法

パーパスを掲げても、明日からの社員の行動がすぐに変わるわけではありません。パーパスを実務で機能させるには、事業との接続が必要です。

1.ビジョンで目指す姿を具体化する

パーパスは企業の存在意義を示すため、ある程度抽象的になります。そこで、ビジョンによって「どのような状態を実現したいのか」を具体化します。

たとえば、「人と地球を豊かにする」というパーパスだけでは、人によって思い描く姿が異なるでしょう。ビジョンや事業戦略で、解決したい環境・社会課題、価値を届ける相手、技術や事業の方向性を示せば、パーパスと現在の事業の間に橋を架けられます。

2.マテリアリティを通じて事業へ接続する

もう一つの方法が、マテリアリティ(重要課題)を通じた接続です。

パーパスが示す未来は、長期的で抽象度が高いものです。それを事業で取り組むテーマに昇華させるため、目標、施策、評価指標へ落とし込む役割をマテリアリティが担います。

なかでも、本業を通じて社会へ新しい価値を提供する「事業マテリアリティ」は、パーパスを具体化する接点になります。

パーパスやビジョンから重要課題を定め、ミッションを踏まえて事業施策へ落とし込み、進捗を管理する。この一連のストーリーをつくることで、パーパスが遠い理想ではなく、目の前の業務と結びつきます。

パーパスを社内へ浸透させる4STEP

パーパスを社内に浸透させる4STEP

パーパスは、策定してからが本番です。全社集会で一度発表し、ポスターを掲示するだけでは、社員の行動は変わりません。

社内浸透を進めるにも、「認知」「理解」「共感」「実践」の4段階で考えると進めやすくなります。

STEP1:認知|接触する回数を増やす

最初は、社員にパーパスの存在を知ってもらう段階です。

一度や二度伝えただけでは、日々の情報に埋もれてしまいます。経営者が自分の言葉で繰り返し語ることに加え、社内報、イントラネット、動画、ポスター、朝礼、会議など、複数の接点を使って継続的に発信します。

重要なのは、単に同じ文章を繰り返すことではありません。経営判断、顧客事例、現場の取り組みなどと結びつけ、パーパスが日常の中で何度も目に入る状態をつくります。

STEP2:理解|言葉の背景にあるストーリーを伝える

次は、文言を暗記するのではなく、パーパスに込められた意味を理解する段階です。

「なぜ自社がこの未来を目指すのか」「どのような歴史や経験から、この言葉が生まれたのか」を伝えます。

ワークショップや部署ごとの対話も有効です。一方的な説明で終わらせず、社員同士が「自部署の仕事とパーパスはどうつながるか」を話し合うことで、自分の言葉で説明できる理解へ変わっていきます。

STEP3:共感|会社のパーパスと個人の価値観を重ねる

理解したからといって、すぐに行動したくなるとは限りません。次に必要なのが共感です。社員一人ひとりには、「どのように働きたいか」「何にやりがいを感じるか」「どのような価値を社会へ届けたいか」という個人の価値観があります。

会社が目指す未来と、自分が実現したいことの接点が見つかると、パーパスは「会社から与えられた言葉」から「自分も関わりたい未来」へ変わります。

1on1ミーティングやキャリア面談などで、個人のキャリアビジョンと会社のパーパスの接点を対話することが大切です。

STEP4:実践|制度と意思決定へ組み込む

最後は、日々の業務や意思決定がパーパスを起点に行われる段階です。

「この新規事業は、パーパスの実現につながるか」「この提案は、私たちが目指す社会に沿っているか」といった会話が、会議や現場で自然に交わされる状態を目指します。

そのためには、パーパスを人事評価、表彰制度、目標設定、事業計画、投資判断、商品開発などへ組み込む必要があります。パーパスを体現した行動が正当に評価される仕組みがあってこそ、組織全体の行動が変わっていきます。

一方でパーパス経営で避けたいのは、立派な言葉を掲げただけで満足することです。形骸化を防ぐために、次の点をあわせて確認しましょう。

・自社の歴史、強み、哲学から発掘した言葉になっているか
・自社が向き合う社会課題と、提供できる価値がつながっているか
・経営者が自分の言葉で、継続的に発信しているか
・社員が対話を通じて、自分の仕事との接点を考えられるか
・評価、表彰、目標、意思決定の仕組みに組み込まれているか
・パーパスに沿った行動や成果を、社内外へストーリーとして伝えているか

まとめ

パーパスは、企業が社会に存在する理由を示す重要な概念です。ビジョン、ミッション、バリューとつなげることで、目指す未来、果たす役割、日々の行動までを一つの体系として整理できます。

自社らしいパーパスは、外から格好のよい言葉を持ってきて作るのではなく、自社の歴史、哲学、強みの中から発掘します。そのうえで、ビジョンやマテリアリティを通じて事業へ落とし込み、「認知・理解・共感・実践」の4STEPで社員の行動へつなげることが重要です。

まずは、自社がこれまで何を大切にし、どのような強みで顧客や社会へ価値を届けてきたのかを棚卸しするところから始めてみてください。

株式会社波濤では、策定したパーパスを社員一人ひとりの理解と行動につなげる、社内浸透の取り組みを支援しています。また、パーパスを起点としたマテリアリティの設定にも対応しています。「策定したものの社内に浸透しない」「事業や重要課題へどう落とし込めばよいかわからない」とお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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