自社の経営層が旗を振り、サステナビリティ方針を策定した。しかし、肝心の現場がなかなか動かず、どこか「やらされ仕事」の雰囲気が漂っている。
そんな状況に頭を抱えている担当者とお話をする機会が増えてきました。
ほな社長本記事では、サステナビリティコンサルタントとして数多くの企業を支援してきた経験をもとに、委員会が機能しない原因と、現場を動かすための3つのステップを解説します。
本記事の内容はYouTube動画でもご覧いただけます。
実際に届いたご質問
本記事は、ある食品メーカーから実際にいただいたご相談をもとに執筆しています。

いただいたご質問を要約すると、以下の通りです。
数年前にサステナビリティ方針は策定したが、社内への浸透が進んでいない。
半年前にサステナビリティ推進委員会を立ち上げ、これから本格的に広めていこうとしている。
ただ、委員会メンバーが何から学べばいいのか分からず、活動とも結びつけにくい。さらに、モチベーションの上げ方にも悩んでいる。
このような課題は、当該企業に限らず、多くの企業で共通して見られるものです。
本題に入る前に、まずはご相談内容から前提となる状況を整理します。
つまり彼らは、「会社が決めたことを、現場に広める役割」を期待されて集められたという前提で話していきます。実際、ご相談いただいた会社のように、各部門からメンバーを選出し、アンバサダー的な役割を担わせる形で社内浸透を図る取り組みは、多くの企業で見られます。
なぜ委員会メンバーは動けないのか?
ご質問の一つに「委員会メンバーは何から学べばいいのでしょうか?」とありました。
この問いに対して、「サステナビリティの基本知識や自社方針から学ぶべき」と考えること自体は妥当です。しかし、それだけでは今回の課題は解決しない可能性が高いでしょう。
なぜなら、社内浸透を目的として推進委員会を設置している場合、基礎知識や方針の共有はすでに一定程度実施されているケースが多いためです。それにもかかわらず、委員会メンバーが期待通りに動けていないのであれば、問題は知識量ではなく、別の要因にあると考えるべきです。
実際、このような場面で多くの企業が取るアクションは共通しています。
・追加の研修を実施する
・外部コンテンツ(eラーニング等)を導入する
・インプット機会を増やす
しかし、この段階でインプットを強化しても、行動変容にはつながりにくいのが実態です。
その理由は明確です。
ここでいう腹落ち感とは、単なる理解ではなく、自分の業務や役割との関係性まで含めて腑に落ちている状態を指します。
現状の委員会メンバーの状態を整理すると、「総論賛成、各論反対」という構造になっている可能性が高いと考えられます。
・サステナビリティの重要性や方針は理解している
・しかし、自部署にとって何を意味するのかが具体化されていない
その結果として、「重要なのは分かるが、どう動けばよいか分からない」という状態に陥ります。

このような状態では、いくら知識を追加しても行動にはつながりません。むしろ「理解しているが実行していない」というギャップが拡大し、推進活動そのものの形骸化につながるリスクもあります。
したがって、この段階で優先すべきは「学習の強化」ではありません。メンバーが自分の業務と結びつけて意思決定できる状態、すなわち「腹落ち感の形成」です。
・なぜ自分たちが取り組む必要があるのか
・取り組むことで何が変わるのか
・自部署にとってどのような意味があるのか
これらが明確になって初めて、行動が生まれます。逆に言えば、この状態がないままでは、どれだけ優れた知識や方法を提供しても、それは単なる追加業務として処理されるだけです。
サステナビリティ推進における腹落ちとは
ここからは、サステナビリティ文脈における「腹落ち感」について整理していきます。
まず前提として、企業のサステナビリティ戦略は構造的に「全社視点」にならざるを得ません。
・CO₂排出量の削減
・人権への配慮
・サプライチェーン全体の最適化
これらは企業として重要なテーマですが、現場の社員にとっては「一部署で働く私が、今日から具体的に何をすべきか」が見えにくいという課題があります。結果として、現場には「方針は理解しているが、行動にはつながらない」という構造的な停滞が生まれます。
この状況を打開し、現場でアクションを生み出すためには、
・なぜこの戦略が必要なのかを理解し
・自部署に紐づけて具体化し
・自ら意思決定できる状態になる
ことが不可欠です。
このプロセスを経なければ、「やらされ仕事」として処理されるだけで、継続的な取り組みにはつながりません。
そして重要なのは、こうした気づきは外から与えられるものではないという点です。委員会メンバー自身が自ら考え、腹落ちするプロセスを経て初めて、実効性のある行動につながります。
ここから導かれる示唆は明確です。相談者の役割は「具体的な指示を委員会メンバーに与えることではなく、メンバーが自ら考え、納得し、意思決定に至るまでのプロセスを演出する」ことです。
ここでいう演出とは、単なる情報提供ではなく、
・どのような情報に触れさせるか
・どのような問いを投げるか
・どのような順番で考えさせるか
といった一連のプロセスを意図的に組み立てることを指します。これらを戦略的に設計することで、初めて腹落ち感が生まれます。
腹落ちを生み出す3つのステップ
ここからは腹落ち感を生み出す3つのステップについて解説します。腹落ち感を生み出すには、下記3つの要素を順番に整えていく必要があります。
・ステップ①目的と理由を深く理解する
・ステップ②具体的な「あるべき姿」を描く
・ステップ③ワクワク感を醸成する
ステップ①目的と理由を深く理解する
「基本知識のインプットは済んでいる」というケースでも、それが教科書的な内容にとどまっているなら十分ではありません。
ほな社長腹落ち感を醸成するには深い理解が求められ、具体的にはサステナビリティと自社のビジネスをつなげた具体的なリスクと機会を認識することが重要です。
そのためには、メンバーに対して次のような問いを投げかけることが有効です。
「この課題に取り組まない場合、自部署にはどのようなリスクが生じますか?」
「逆に、取り組むことでどのようなビジネス機会が生まれますか?」
例えば、気候変動をテーマに考えてみましょう。単に「社会全体として重要な課題である」と捉えるだけでは不十分です。
・気温上昇により、原材料の収穫量が減少し、仕入コストが上昇する
・自然災害の増加により物流が停滞し、サプライチェーン全体に影響が及ぶ可能性がある
このレベルまで具体的に落とし込めて初めて、「これは自分たちの事業に直結する問題である」という認識に変わります。
これが、腹落ち感を生み出す第一歩です。また、競合他社の動きも有効なインプットになります。
こうした情報は、抽象的な危機感ではなく、自社の競争環境に基づいた具体的な危機認識を生み出します。この危機認識が、行動を促す重要なドライバーになります。
さらに、議論を機能させるためには「共通言語」の整備も不可欠です。
したがって、現場での議論に必要な最低限の専門知識については、事前に補完しておく必要があります。
まとめると、最初に取り組むべきは一般論の理解ではありません。自社のビジネスに直結する「現実的なリスクと機会」を自身の言葉で言語化させることから始めましょう。
ステップ②具体的な「あるべき姿」を描く
ステップ①で「目的と理由を深く理解する」ことをお伝えしましたが、このインプットだけでは人は動きません。行動を引き出すためには、「自分たちでなにをするのか」を決めるアウトプットが不可欠です。
ほな社長その具体的な手段として有効なのが、自部署におけるKPI(重要業績評価指標)の設定です。
イメージしやすいように、ダイエットに置き換えてみます。「5kg痩せたい」と考えているだけで、具体的な行動計画を持たない人と、数値目標を設定し、定期的に振り返りを行っている人とでは、成果に大きな差が生まれます。
KPIを設定する際のポイントは3つあります。
ポイント①自部署で貢献できるマテリアリティ(重要課題)を選ぶ
すべてのマテリアリティに一律に取り組むことは難しいです。経理部が「工場の水質汚染」を解決するのが難しいように、自部署と最も関わりの深い課題を選んでもらいましょう。
ポイント②計測できる「定量的な」目標を設定する
「意識を高める」「取り組みを強化する」といった表現では不十分です。
・エコ商材の提案件数を年間50件にする
・英語版マニュアルを10月末までに整備する
といった、数値で評価可能な目標に落とし込む必要があります。
加えて、結果指標だけでなく、自分たちの裁量でコントロール可能な行動指標を設定することも重要です。
ポイント③必要に応じて部門横断で設定する
マテリアリティによっては、一つの部署だけでは完結しないものもあります。その場合は開発部と製造部が共同でKPIを掲げる、といった形式も有効です。
このようなKPI設定のアプローチは、サステナビリティ推進の代表的なガイドラインである「SDG Compass」においても推奨されています。
これこそが、行動を継続させるための重要な要素です。
ステップ③ワクワク感を醸成する
KPIを自分たちで設定することで、当事者意識は芽生えます。しかしそれだけでは、「やらなければならない義務」になりがちです。
そこで必要なのが「ワクワク感」の設計です。
ビジネスにおけるワクワク感とは「失敗を恐れず、挑戦したくなる気持ち」のことです。サステナビリティへの取り組みは新しいことの連続であり、失敗することもあります。このとき、「失敗=減点」と捉える組織では、現場は挑戦を避けるようになります。結果として、形式的な取り組みにとどまり、変革は進みません。
したがって重要なのは、挑戦そのものを評価する文化を意図的に設計することです。そのための具体的な施策を、難易度別に紹介します。
難易度「低」:社内発信による可視化(社内報・任命証など)
取り組み事例を社内で紹介し、「価値ある行動」として可視化するだけでも効果があります。
こうした取り組みは、コストをかけずに実施できる一方で、承認欲求を満たし、次の行動につながりやすいのが特徴です。
難易度「中」:社内アワードによる評価
優れた取り組みをしたチームを会社として表彰する仕組みです。
難易度「高」:人事評価への連動
最もインパクトが大きいのが、人事評価との連動です。
いきなり人事制度を変えるのはハードルが高いかもしれませんが、「承認」や「対価」が得られる仕組みを段階的に設計していくことが、担当者の腕の見せ所です。
見落としがちな重要ポイント「メンバー選定」
ここまで腹落ち感を醸成する3つのステップをお伝えしてきましたが、そもそも委員会メンバーの選定を誤ると、どれだけ丁寧な演出をしても成果につながらない可能性があります。
委員会メンバーに求めたい要件は、主に以下の3点です。
・自部署の業務全体を把握している
・周囲のメンバーへの影響力がある
・サステナビリティに対して前向きである
もし現在の委員会メンバーが入社1〜2年の若手中心であれば、状況によっては厳しいかもしれません。部署のKPIを考えたとしても「上司に却下されました」で終わってしまう可能性があるためです。
理想は、部長・課長クラスの管理職がメンバーとして加わることです。
「誰を船に乗せるか」が、目的地に辿り着けるかどうかを大きく左右します。
まとめ & お役立ち資料のご案内
ほな社長本記事では、サステナビリティ推進委員会や部署が機能しない原因と、現場を動かすための3つのステップを解説しました。
「やらされ仕事」を「自分ごとのプロジェクト」に変えるのは、担当者の「演出力」にかかっています。3つのステップを実践することで、停滞していたサステナビリティ活動が着実に動き出すはずです。
また、サステナビリティ経営に役立つ13のお役立ち資料と、60分の無料相談会をご案内しています。委員会の活性化から方針策定・社内浸透策の設計まで、サステナビリティ経営の全ステップをプロの視点から一緒に考えさせていただきます。
まずは下記フォームからお気軽にお問い合わせください。

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