コーポレートガバナンス・コード2026年改訂とは?4つの変更点と企業の対応を解説

2026年7月、コーポレートガバナンス・コードの改訂版が公表されました。

今回の改訂をひと言で表すなら、細かなルールを減らしながら、企業ごとの判断と説明をこれまで以上に重視する見直しです。「ルールが減ったなら対応も楽になる」と考えると、本質を見誤るかもしれません。

改訂版では、経営資源の配分、取締役会の機能、有価証券報告書の開示時期、ステークホルダーとの協働など、経営判断に直結するテーマが示されています。報告書の文言だけを直せば終わるものではなく、各部署が連携して取り組む必要があります。

本記事では、コーポレートガバナンス・コードの基本知識、2026年改訂の構造と4つのポイント、企業が今から準備すべきことを分かりやすく解説します。

ほな社長

今回の改訂は、ルールが単純に減ったという話ではありません。基本原則は5つから4つに再編され、補充原則は原則と解釈指針へ整理されました。自社の判断と説明がこれまで以上に問われます。

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目次

コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンス・コードとは、上場会社が透明で公正な経営を行いながら、迅速で果断な意思決定をするための基本的な考え方を示したものです。

難しく聞こえますが、会社が健全に成長し続けるための「経営のルールブック」と捉えると分かりやすいでしょう。

ただし、法律のように、すべての会社へ一律に同じ行動を命じるものではありません。業種、規模、成長段階、経営環境によって、望ましいガバナンスの形が異なるためです。

そこで採用されているのが「コンプライ・オア・エクスプレイン」という考え方です。

コンプライ: 原則を実施すること
エクスプレイン: 原則を実施しない理由を説明すること

大切なのは、すべての項目へ形だけ対応することではありません。原則の目的を理解したうえで、自社に合う対応を選び、その判断と取り組みを具体的に説明することです。

2026年改訂でコードの構造はどう変わったのか

改訂前の基本原則5つ・原則・補充原則から、改訂後の基本原則4つ・原則・実質対応を支援する解釈指針への構造変化

2026年改訂では、従来の「補充原則」という区分が廃止され、「基本原則」「原則」と、その実質的な対応を支援する「解釈指針」に再整理されました。

基本原則は、コード全体が目指す方向を示す最上位の考え方です。個別の手続きや開示項目を定めるものではなく、上場会社がガバナンスを考える際に土台とすべきテーマを示しています。

従来の基本原則は、「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」の5つでした。

この基本原則を、企業が具体的に取り組むべき事項へ落とし込んだものが「原則」です。さらに、その内容を実務レベルまで具体化したものが「補充原則」でした。つまり、従来のコードは、基本原則、原則、補充原則へ進むにつれて内容が具体的になる3層構造でした。

一方、補充原則まで細かく確認する実務では、「この項目を実施したか」「報告書に記載したか」が中心となり、コードの趣旨を踏まえて自社に必要なガバナンスを考えるという本来の目的よりも、形式的な対応が優先されやすい課題がありました。

そこで2026年改訂では、コードの趣旨や使い方を改めて示す「序文」が新設されました。基本原則は従来の5つから4つへ再編され、「株主との対話」は「株主の権利・平等性の確保」と統合されています。

補充原則という区分は廃止され、その内容のうちガバナンスの中核となるものは「原則」へ、原則の背景や目的、具体的な取り組み例などは「解釈指針」へ再整理されました。

改訂後、コード上の規範は「基本原則」と「原則」で構成されます。「解釈指針」はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではなく、各原則への実質的な対応を支援するための参考情報という位置づけです。

改訂後の基本原則、原則、解釈指針の役割は、次のように整理できます。

基本原則: コード全体が目指す方向を示す最上位の考え方
原則: 企業が具体的に取り組むべき事項
解釈指針: 原則の背景や目的を理解し、自社に必要な対応を考えるための参考情報

解釈指針は、全項目を機械的にチェックして実施するための追加ルールではありません。原則の趣旨を理解し、自社の状況に応じた実質的な対応を考えるための手掛かりです。

つまり、今回の構造変更は、「書かれた項目へ対応する」ことから、「原則が何のためにあるのかを理解し、自社なら何をすべきか考える」ことへの転換だといえます。

コーポレートガバナンス・コード2026年改訂の4つのポイント

2026年改訂の主要なポイントは、次の4つです。

企業価値の向上につながる、経営資源の配分、取締役会の機能強化、有報の総会前開示、ステークホルダーとの協働

1. 経営資源の配分

1つ目は、経営資源の配分です。

企業には、目指す姿を掲げるだけでなく、そこへ至る「成長の道筋」を示すことが求められます。会社のお金や人材をどこへ振り向け、どのように企業価値を高めるのかを具体的に説明する必要があります。

たとえば、次のような選択肢があります。

  • 設備や研究開発へ投資する
  • 人材育成や人的資本への投資を強化する
  • 知的財産や無形資産を育てる
  • M&Aを実施する
  • 事業ポートフォリオを見直し、成長分野へ人や資金を移す

経営資源は無限ではありません。だからこそ、「何に使うのか」「なぜそこへ使うのか」「その配分が成長戦略とどうつながるのか」を説明し、配分が適切か継続的に見直すことが重要です。

ここで注意したいのが、現預金の扱いです。今回の改訂は、企業が保有する現金をすべて投資へ回すことを求めるものではありません。

事業を安定して続ける、予期せぬ事態に備える、将来の投資へ備えるなど、目的と合理的な理由があれば、現預金を保有すること自体が否定されるわけではありません。

問われるのは、「なぜその水準の現預金が必要なのか」「ほかに有効な使い道はないのか」「自社の成長戦略とどうつながっているのか」を説明できるかです。

2. 取締役会の機能強化

2つ目は、取締役会の機能強化です。

取締役会には、会社の重要な方針を決め、経営が適切に行われているかを監督する役割があります。しかし、必要な人数の取締役をそろえ、定期的に会議を開くだけで、その役割を果たせるわけではありません。

特に重要なのが、経営陣から独立した立場で監督や助言を行う独立社外取締役です。人数だけではなく、必要な知識と経験を持っているか、経営陣から独立して意見を述べられるか、実際に役割を果たせているかが問われます。

そのためには、取締役会を支える事務局の機能も欠かせません。

・今、取締役会で議論すべきテーマは何か
・社外取締役の判断には、どのような情報が必要か
・資料をいつまでに共有すれば、十分に検討できるか
・中長期の成長戦略や重要リスクを議論する時間を確保できているか

事務局の役割は、日程を調整して資料を配ることだけではありません。重要な議論が生まれる環境を整え、取締役会が会社の成長とリスクを実質的に監督できるよう支えることが求められます。

3. 有価証券報告書の定時株主総会前開示

3つ目は、有価証券報告書の定時株主総会前開示です。

有価証券報告書には、売上や利益だけでなく、事業内容、経営上のリスク、役員報酬、ガバナンスなど、株主や投資家が会社を判断するための重要な情報が記載されます。

一方、株主総会では、株主が取締役の選任など重要な議案について判断します。そのため、株主が議決権を行使する前に、有価証券報告書を読めることが望ましいと考えられます。

改訂版では、有価証券報告書を定時株主総会前に提出することが原則に盛り込まれました。解釈指針では、株主総会開催日の3週間以上前の提出が「最も望ましい」とされ、必要に応じて株主総会の開催時期を後ろへずらすことも選択肢として示されています。

ただし、「3週間以上前」は、すべての会社が一律に守らなければならない法的義務ではありません。株主が十分な情報を持って判断するための、最も望ましい目安です。

とはいえ、単なる参考として無視できるものでもありません。提出を早めるには、決算、監査、各部署からの情報収集、社内確認、取締役会、株主総会の日程まで、会社全体のスケジュールを見直す必要があります。

4. ステークホルダーとの適切な協働

4つ目は、ステークホルダーとの適切な協働です。

ステークホルダーには、株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、金融機関、地域社会など、会社の活動に関わる人や組織が含まれます。

企業は、株主と経営者だけで動いているわけではありません。従業員が働き、取引先が商品や原材料を届け、顧客が商品を選び、地域社会が事業活動を受け入れることで、経営を継続できます。

改訂版の解釈指針では、人的資本への投資と適切な分配、取引先との公正・適正な取引、サプライチェーンにおける適正な価格転嫁などが例として示されています。

従業員へ投資しなければ、人材は育ちません。取引先へ過度な負担を求めれば、サプライチェーンが弱くなり、最終的には自社の経営にも影響します。

自社だけが短期的に利益を得る関係ではなく、従業員や取引先をはじめとするステークホルダーと価値を生み出せる関係を築くことが、持続的な成長につながります。

「すべて実施しなければならない」は誤解

2026年改訂を理解するうえで、特に注意したいのが「コードに書かれた原則は、すべて実施しなければならない」という誤解です。

コンプライ・オア・エクスプレインでは、会社の規模、事業内容、置かれた状況によって、ある原則を形だけ実施するよりも、実施しない理由を丁寧に説明する方が適切な場合があります。

ただし、「実施しない理由を何か書けばよい」という意味ではありません。ひな型のような表現による表面的な説明では、原則の趣旨に沿った対応とはいえません。

エクスプレインを選ぶなら、少なくとも次の点を具体的に示す必要があります。

・なぜ、現在は原則を実施しないのか
・代わりに、どのような対応を行っているのか
・今後、どのように取り組むのか

コンプライする場合も同じです。「実施しています」と記載するだけでなく、具体的に何を行い、なぜその対応を選んだのかを伝えることが重要です。

求められているのは、文章を整える技術だけではありません。自社の事実と経営判断を、相手に伝わる形で説明することです。

改訂版への対応期限と対象範囲

東京証券取引所は、2026年7月21日に改訂版コードを施行しました。上場会社は、2026年改訂を踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書を、準備ができ次第、2027年7月末日までに更新する必要があります。

プライム市場とスタンダード市場の上場会社はコードの全原則、グロース市場の上場会社は基本原則について、実施しないものがある場合に理由を説明することが求められます。

期限だけを見て、「まだ時間がある」と考えるのは注意が必要です。今回の改訂には、経営資源の配分、取締役会の運営、有価証券報告書と株主総会のスケジュールなど、経営陣と複数部門の判断が必要なテーマが含まれます。

報告書の更新直前に文章を整えようとしても、社内の事実や意思決定がそろっていなければ、具体的な説明はできません。期限から逆算し、早めに論点と関係部署を整理することが大切です。

経営者と実務担当者が今から行うこと

今回の対応は、実務担当者だけへ任せるものではありません。経営者と実務担当者が、それぞれの役割を果たしながら連携する必要があります。

経営者は成長の道筋・取締役会の実効性・全社体制を整え、実務担当者は現状照合・事実収集・期限からの逆算を行い、自社の言葉による説明へつなげる

経営者が行う3つのこと

1. 成長の道筋と経営資源の配分を自分の言葉で語る

自社はどこを目指すのか。そのために、設備、研究開発、人材、知的財産、M&Aなどへ、どのように経営資源を配分するのか。現預金を保有するなら、なぜその水準が必要なのか。

これらは担当者に文章を作ってもらうだけでは整理できません。経営者自身が考え、取締役会で議論すべきテーマです。

2. 取締役会で本当に議論すべきことを決める

目の前の個別案件の承認だけで時間を使い切っていないか、中長期の成長戦略や重要リスクを十分に議論できているか、社外取締役へ必要な情報が届いているかを確認します。

取締役会を「開催している」状態から、「機能している」状態へ変えることが重要です。

3. コード対応を担当者任せにしない

ガバナンスは、経営企画やIRだけの仕事ではありません。財務、人事、法務、総務、リスク管理、情報システム、調達、各事業部門など、会社全体の経営に関わるテーマです。

経営者がコードの趣旨を社内へ伝え、実践するための組織体制を整える必要があります。

実務担当者が行う3つのこと

1. 現在の報告書と改訂版コードを照らし合わせる

記載欄が埋まっているかだけを見るのではなく、次の順番で確認します。

  1. この原則は何のためにあるのか
  2. その目的に対して、自社は何を行っているのか
  3. 取り組みと判断理由を具体的に説明できているか

解釈指針は、全項目を機械的にチェックするためではなく、原則の背景と目的を理解するために使います。

2. 社内から根拠となる事実を集める

担当者が一人で説明文を考えるのではなく、関係部署から自社の実態を集めます。

  • 成長戦略・資源配分: 経営企画、財務、各事業部門
  • 人的資本への投資: 人事、財務
  • 公正な取引・価格転嫁: 調達、営業、法務
  • リスク管理: リスク管理、情報システム、内部監査
  • 有価証券報告書・株主総会の日程: IR、経理、法務、総務、監査関係者

文章を作る前に、説明の根拠となる事実と社内判断をそろえることが大切です。

3. 期限から逆算して社内の判断日程を決める

誰が原案を作るのか、どの会議体で議論するのか、いつ経営者と取締役会の確認を受けるのかを具体化します。あわせて、有価証券報告書と株主総会の日程、コーポレート・ガバナンス報告書の更新時期を一つのスケジュールとして整理します。

まとめ

コーポレートガバナンス・コードの2026年改訂では、形式的なチェックリスト対応から、原則の目的を理解した実質的な対応への転換が一層重視されています。

主要な改訂ポイントは、次の4つです。

①経営資源の配分
②取締役会の機能強化
③有価証券報告書の定時株主総会前開示
④ステークホルダーとの適切な協働

今回のコードは、すべての会社へ同じ答えを求めるものではありません。自社の状況と原則の目的を踏まえて対応を選び、その理由と取り組みを自社の言葉で説明することが重要です。

また、改訂対応は、担当者が報告書の文章だけを直せば終わるものではありません。経営者が方向性を示し、取締役会で議論し、担当者が各部署から事実を集め、会社としての説明へつなげる必要があります。

まずは、自社のコーポレート・ガバナンス報告書と改訂版コードを照らし合わせ、社内の誰と、何を議論する必要があるかを書き出すところから始めてみてください。

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参照情報

この記事を書いた人

株式会社波濤 代表取締役/サステナビリティコンサルタント
「人づくりから始まる、サステナビリティ経営」を信念に、企業のサステナビリティ推進を支援。特に、ビジネスパーソン一人ひとりの意識を変え、自発的な行動につなげる「社内浸透」を得意とする。研修・ワークショップ・コンサルティングを通じて、これまで200社以上を支援し、延べ40万人を超える教育実績を持つ。

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